親友の葬式と松岡茉優とのデートならどちらを優先するだろうか

先輩に誘われ飯田橋のあげづきに行ってきた。どうやらカツがうまい名店とのこと。

 

夜の7時くらいに行くと外にひと組の待ち。さらっと入れそうだなと思っていたが席に着いたのは30分後。メニューが和紙に書かれているせいでやたらと滲んでいて読み難い。そこの老舗感はいらない。上ロースの定食1,980円を互いに頼み、ビールを飲みながら料理を待つ。すぐ出る水茄子をつまみながら、カツの揚がる音に耳をすます。その音は普段聴き慣れているものよりサラサラとしていて、下品な例えをするならば音姫の音にそっくりだった。そこから30分くらい経ち8時過ぎのこと。

 

眼前にカツ有り。

 

ソースではなく岩塩推奨らしい。全体にまぶしひと噛み。衣、肉、油の順。口の中に広がる。サクッ、グニュ、ジュワッ。ああ、美味いやつだこれ。マジのやつ食うと勝手に口角があがる現象あり。互いに無言のまま完食。待った甲斐のある料理だった。

 

と、ここからが本題。

 

僕は食べながら考えた。たしかに、今まで食べたカツのなかで間違いなくトップクラスだ。しかし1位だろうか。瞬間、脳裏に『かつれつだけだ』が現れる。四ツ谷の『かつれつたけだ』のもち豚ロースカツ。これもべらぼうに美味い。奇しくもこちらも岩塩推奨カツ。値段が約1600円。安さでいくと軍配はあがる。しかし、今はあくまでどちらが美味いかだ。コスパは度外視。悩む。どっちだ。どっちなんだ。飯田橋『あげづき』、四ツ谷『かつれつタケダ』。どっちだ。

 

 

唯一無二の親友の葬式の日に松岡茉優との一度限りのデートが被った時くらい悩む。

 

 

先輩から声がかかる。「めっちゃうまくない?」僕はふいのその問いに思わず「人生で1、2を争うくらいうまいです」と迷ってるままの答えを出してしまった。

 

この返答をどう思うだろうか。僕は当時を振り返りミスったなぁと思う。本来であればここは間髪入れず「人生で1番うまい」と言うべきだし、親友の葬式に行くと答えるべきなのだ。それが本当か嘘かはどちらでもいいのだ。僕の反応は最悪普段もっと良いもの食ってるアピールとも取られかねない。ましてや松岡茉優とのデートを優先するなんて言った日には末代まであだ名が色情魔になりかねない。しかし、実際にその時の僕の脳内では本当に熾烈な争いが起こってるわけでそこに嘘偽りはないのだ。

 

こういう時に自分にとっての本当の反応をしてしまうのはつくづく損だと思う。コミュニケーションの本質は相手の欲しいボールを投げることだとどこかで聞いた。そうだとするならば、僕はさしづめ自分が投げたいボールだけなげる我儘なピッチャーだろう。そんなコミュニケーションが全てならこちらから願い下げだが。

 

ちなみに帰り道よく考えた結果、飯田橋『あげづき』の方が1.1倍くらいうまい気がしたし、俺の親友なら松岡茉優とのデートを優先しても天国で笑ってくれる気がしたし、その前に松岡茉優とデート出来ることは、たぶんない。